アクセサリー
「なんか音聞えてるよ」
 直美がはしゃいでいる。
 小走りになる直美に遅れないように彩乃は追
いかける。慣れないパンプスは歩きにくい。
歩きにくいのだから当然走るのはもっと大変
だ。足の小指がパンプスの中ですれて痛い。
 パンプスを脱ぐころにはマメができているかもしれない。
 少し足を気にしながら、直美の近くに寄った。
「そこは別のサークルじゃない?」
 教室をのぞこうとする直美に声をかけた。教室からはジャズ演奏が聴こえている。完全に別のサークルのようだ。
「ああ、そう? ジャズけっこう好きなんだけどな」
 ちょっと聴いていかない? というように直美は教室をのぞいている。彩乃は直美がジャズに興味を持ってしまったことに、少しもどかしくなって不安になる。ここでジャズを聴いてタイムロスして、せっかくのライブに遅れてしまうのは避けたい。
「今はやめようよ」
 最低でも五分前には到着していたいのだ。
「分かってるって」
 直美は少しからかっていたのか、くるっと向きをかえた。
「そんなに不安にならなくてもいいじゃない! さあ、行くよ。教室どこだったっけ?」
 直美は彩乃の肩を叩いて、すたすた歩いていく。
「からかわないでよ」
 彩乃は笑みがこぼれて、緊張が少しほぐれた。先を歩く直美のあとをついていった。

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