アクセサリー
 そういえば、動きは少なく、耽々とギターを弾いている。それは隆一だけでなく、ボーカルもベースも一緒だ。ドラムだけは全身で叩いているような気がするけど。
 そうこうしていると一曲の演奏が終わった。
 パチパチパチ。
 真っ先に彩乃は拍手をした。直美や他の観客も続けて拍手をした。
 ボーカルの人が頭を下げて、 
「どうもありがとう。今のは『L’Arc-en-Ciel』の曲だったんですけど、次もそうなんですよ。『HONEY』って曲だけど知ってるとうれしいですねえ」
と、しゃべりだす。
「あっ、この曲好き!」
 直美がにこっと笑ってこちらを見る。
 隆一のギターだけがジャーンと鳴った。彩乃は隆一の手の動きを見た。今度は隆一の音だけに注目しよう。
 ボーカルが隆一のギターに合わせて歌いだした。そのあとドラムとベースが加わったが、隆一のギターの音だけをしっかり聞いた。彩乃の知らない曲だったが、楽しくなって、肩をゆらし、リズムをとった。事前に曲目を聞いておいて予習してくれば良かったな、といまさら思う。『HONEY』の演奏が終わると、ボーカルの人はエビアンを口にした。
「ちょっと喉が緊張とかで疲れちゃってて……、じゃあ、ここでバンドメンバーに話をふってみようかな?」
 そう言ってベースの人にマイクを渡した。マイクが渡ると女性ファンがざわつく。
「こんにちは。ベースのトモヒロです。ちなみにトモヒロというのは名前じゃなくて、苗字です。〝友達〟の〝友〟にひろは〝まだれ〟に〝黄色〟の〝黄〟みたいな字を書きます。ちょっと難しい字なんですけどね、〝友廣〟って苗字は」
 彩乃はそうだったんだ、とつぶやく。隆一からトモヒロさんの話を聞いていたとき、てっきり名前だと思っていた。
「思った以上に集まってくれたみたいですごいうれしいです……、じゃあ玄太郎!」
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