アクセサリー
 五曲目には隆一もライブに慣れてきたようで、ステージングを意識するようになった。ジャンプをしたり、ギターをふりまわすというダイナミックなステージングはないが、足で大きくリズムをとったり、角度を意識したり、ボーカルと背中合わせになってギターを弾いたり。そんな隆一を見て、彩乃は楽しくなってきた。
「だんだん僕たちもノってきましたよ」
 汗をふきながらボーカルの人がMCもはさむ。
「トモヒロさん、なんかおもしろい話はないの?」
 ボーカルの人はそう言って、マイクをトモヒロさんに渡した。急に渡されたトモヒロさんは少し困りながら、
「えっと……、じゃあバイトの話でもちょっとしようかな。実はホストやってたことがあるんです」
と告白をする。
「えっ、マジで?」
 直美は身を乗り出す。彩乃も驚く。トモヒロさんの容姿ならばホストをやっていたとしても不思議はない。
「それで、このベースなんですけど、女性客に買ってもらったんですよね……」
 すげー。貢がせたんだ……。と、どよめきが起こる。
「マジっすか? トモヒロさん」
 ドラムの人が口をはさんだ。
「マジなんだよね……。さていくらしたでしょうか? そこのきれいなお嬢さん」
 トモヒロさんは不意に直美を指さした。
「えっ?」
 急に指名された直美は驚きながらも、うれしそうな顔をした。少し考えて、
「……五万円ぐらいですか?」
と答える。
「ブー! 正解は……、二十万です!」
 そう言いながら頭を下げた。
 マジでー? すごーい! と一層のざわめきが起こった。直美は感心したような顔をする。
「すごいね」
 直美は彩乃の耳元で言う。
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