アクセサリー
「……今日はありがとうございました! 終りでございます」
 ボーカルの人と一緒に隆一も頭を下げた。パチパチパチ……。
彩乃と直美は真っ先に拍手を送った。
拍手に見送られながら、隆一たちは机で仕切られた簡単な控え室に消えていった。
「終わったね……、どうすんの彩乃? 帰らないでしょ?」
「うん」
 彩乃はこれからどうしよう、と少し心配になった。隆一が来てくれなかったら、このまま帰るしかないのだろうか。自分から会いに行っていいものだろうか。
「そうだよね。もうちょっと待ってみようか?」
 直美がそう言うと、青白いメイクをした新たなバンドがやってきた。
飢魔愚0? 
何と読むのだろう?
今から始まるのかな?
 不思議な面持ちで眺めていると、隆一たちが控え室から出てきた。ドラムやボーカルの人が、見にきてくれた人たちのもとへ行く。トモヒロさんが出てくると女性ファンがわいわい騒ぎだした。携帯のカメラやデジカメを用意している。直美もトモヒロさんに興味があるようで、
「ちょっとごめんね」
と、一緒になって携帯のカメラを準備していた。
 隆一の姿が見える。ゆっくりと彩乃の方にやってきた。だんだんと近づいてくる隆一をどんな格好で待てばいいのか分からないので、とりあえず立ち上がった。
「どうもありがとう」
隆一は頭を下げながら言った。彩乃は少し緊張しながら、
「すごい楽しかったよ」
と言う。
「……なんか今日は全然違うね。別人みたいにかわいいじゃん」
隆一は笑顔でそう言ってくれた。彩乃はうれしくなって笑う。
「ちょっと外でない? なんか暑くって」
「うん」
 直美はトモヒロさんと写真をとっていた。
 






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