アクセサリー
「……どうした?」
 ついにトモヒロさんは口を開く。
「……いやあ、あの……」
 すっかり赤くなった顔をうつむかせながら、ぽつぽつと徳さんは語りだした。
 どうやら最近は彼女とうまくいってなかったらしい。ほとんど破局に近い状態だったらしいのだが、今回のライブに誘い、格好いいところを見せて、一発形勢逆転を狙ったらしいのだが、彼女があらわれなかったのだ。いくらがんばったところで彼女がその場にいなければ話にならない。
 ライブ前にそわそわしていた理由がようやく分かった。

「それはさ、本当に……つらいと思うけどさ……」
トモヒロさんが背中をさすりながら慰める。徳さんは泣きだしている。
「ライブ見たってさ……、ェッ、ェッ……」
嗚咽が混じりながら、ぽつぽつ語りだす徳さんを見ているといたいたしい気持ちになってきた。
「……ェッ……、気持ち変わらないよな……、バカなことした……、ェッ……、しかも来ないしさあ……」
 隆一はどんな声をかけていいのか、まったく分からなかった。目の前で悲しみを吐き出し、泣いている人にはどんな対応がベストなのだろう。それに、こんなにまで酔った徳さんを見たことがなかった。
「だいたいもし見に来たってさ……、ェッ、ェッ……。ライブ見たって気持ち変わらないよな……」
徳さんは繰り返しそう言う。徳さんには申しわけないが、隆一にとってはそんなことはなかった。ライブでなくても服装や見た目で印象はかなり変わるものだ。
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