アクセサリー
「どうだった今日?」
 二号館の入り口前に直美はいた。楽しそうな顔で寄ってきて彩乃の顔をじろじろ見る。彩乃は笑みがこぼれる顔を見られるのが恥ずかしかった。
「すごい楽しかったよ」
「片付け手伝ってるのをちらっと見てけど、いい感じだったじゃない」
「見てたの?」
 いつ見ていたのだろう? と思うが、直美はそういうことが好きだ。
「いいじゃない、別に。服とかほめてもらえたんでしょ? かわいいって言ってもらえたんでしょ?」
「……うん」
 彩乃は恥ずかしくなって視線をそらした。すっかり日は落ちかけている。ぞろぞろとみんな帰りはじめていた。
「恥ずかしがらないでもいいじゃん」
 直美は彩乃の肩をたたく。
「もう一息よ。まず相手に意識させることが大切だからね」
「うん」
「さあ帰るよ」
 直美はくるっと向きを変え、駅のほうへ歩く。直美は切り替えが早い人なのかな? くるっと向きを変える姿を見て思った。くるっと向きを変えることがスイッチの切り替えのように、気持ちをすぐに切り替えられる人に見えた。彩乃は恋に振り回されて、それしか見えない。彩乃は直美のあとをついて歩き出す。夕暮れになると急に冷え込む。
彩乃は手袋をする。冷たい手が手袋のなかでふるえていた。
「ね、今日どんな話したの?」
 直美が振りかえって尋ねる。
「あのね……」
 照れながら彩乃は語りはじめた。
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