アクセサリー
 彩乃はそう言って、隆一の手に触れた。直美に言われたアドバイスを思い出して、スキンシップをしたのだ。
 隆一もまんざらでもない様子で、彩乃の指先をなでた。
 彩乃と隆一の間に共通の何かが生まれたような気がした。証拠はないもの、なんとなく、なんとなく、そう感じた。
 人を好きになる、ってなんて素晴らしいことなのだろう、と彩乃はこの世界に生まれた意味を理解したような気分になった。
〝好き〟という概念が、どんな道徳も法律も、すべてを超越するような概念に違いない。
 雰囲気にのまれて、そんな感情になっただけかもしれない。この好きという気持ちは、もしかしたら、一過性のもので、いつかは消え去るのかもしれない。でも、確かに今そう感じている彩乃がここにいるのだ。それはまぎれもない事実。
 この気持ちに嘘はつけない。
 恋する喜びを胸にしっかりと抱きしめながら、彩乃は隆一を見つめていた。
「そろそろ、行かなきゃな……」
 隆一は時計を見ながら言った。彩乃はまだまだ一緒にいたい。
「そうなの」
 少し寂しそうな顔をして訴えてみるが、隆一も仕事があるらしい。残念そうに顔を歪めている。
「ごめん。また連絡するよ」
 隆一はそう言ってベンチを立つ。彩乃も一緒に隆一を教室まで送り別れたのだった。


        *


 いつ連絡してくれるのだろうか?
 次にいつ会えるのだろうか?
 そのことしか考えられない。頭がいっぱいだ。何も考えられない。
「にこにこしちゃって」
 隣に歩く直美に高鳴る気持ちは隠せないらしい。
「だって楽しいんだもん」
 夕暮れの街を歩く。一日一日がとても価値があると思える。一歩一歩恋愛が進んでいく喜び、それは何かを作り上げる過程に似ている。製作途中が一番楽しいのだ。これからの期待感に胸がふくらんでいる。
 オレンジ色に照らされた道路に直美と彩乃の影が並んだ。
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