アクセサリー
「……俺は元気だよ」
「……ふうん……」
 タカミは十分な間をおいてしゃべる。不気味な余裕だ。タカミは明るい性格ではないが、今日は特別に暗さが伝わる。タカミの闇に隆一の心侵が侵食され、どんどん黒く染まっていくような気がした。
「今日学園祭だったんでしょ?」
 タカミの声のトーンが少し高くなる。少し取り戻しかけた落ち着きが少し揺らぐ。だいたい、なぜ今日が学園祭だったことを知っているのだろう。
「……よく知ってるね」
「隆一の大学のホームページで学事日程を見れば分かるの」
「そんなことまでしたんだ?」
「……何で声かけてくれないの?」
「それは……」
「前は誘ってくれると言ったのに」
「……ごめん」
「音楽なんて言ってみれば、ただの現実逃避だものね」
「え?」
 隆一は現実逃避という言葉に反応する。
「そうよ。現実を忘れるために音楽をやっているのよ」
「そんな……」
 音楽に命をかけているなら、思いっきり反論したのだろうが、そうでもない隆一は何も言い返せない。
「……でも、もういいの。ライブに誘ってくれなくたって。隆一とはもう何でもないことにしたいと思って」 
 音楽を現実逃避と言われて動揺してしまったが、タカミのその言葉を聞いて隆一はほっとした気持ちになった。もう一度やりなおしたい、と言われたらどうしようかと思ったところだ。
「それがいいんじゃないかな」
 隆一は声が少し明るくなった。ふだんなら、感情を抑えられるはずなのに、タカミの不気味なプレッシャーのなかでは少しの感情も隠せない。
「……別れたいみたいね……。別にいいの……、でもね、ちゃんと言っておこうと思って……、隆一といて感じたことを」
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