アクセサリー
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〝相手が愛されていると思うような行為〟
 タカミの言葉が忘れられない。
 隆一は愛することを知らない。今までやってきたのは〝相手が愛されていると思うような行為″だ。
 それなら〝愛〟とはなんだ?
 隆一が今までやっていたのは言わば、表面上の愛だ。
 つまり嘘だ。偽造だ。
見せかけの愛で、愛が分かっているつもりで、勘違いをして、のうのうと生きていたのだ。
 タカミとは性格の似たところがあった。世界に期待なんかしていない。何が楽しいのかも分からない。さっさと世界が終わるなら終わってしまえ。どんどん老化し、醜くなっていく己の肉体といつまでも付き合っていられるか。
 だからうまいものを食べて、いい女とセックスがしたい。人間の欲望なんてものは性欲と食欲だ。勉強する、いい大学、いい会社に入る、出世する。すべての行動の目的なんて、結局のところ性欲と食欲だ。お金持ちになって何がしたいかと言えば、うまいものを食べながら、いい女と寝ることだ。
 その点で隆一は欲望に素直だ。いい女と寝たい。寝たいからといってすぐに、「ヤらせてくれ」とは言わない。 いい女とホテルに行くには、女の気分を盛り上げて、寝てもいいかと思わせることが、一番の近道だ。だから恥ずかしいなんて言っていられない。手を握るなり、服装でも髪型でも褒めちぎるのだ。
 それが隆一の基本的な思考だった。
 食って、女と寝るだけが目的なんて、ただの獣だ。獣であることを恥じる。だが人間なんて生き物は高尚ぶっても所詮、地球に生きる動物の一種だ。獣で何がおかしい。
 隆一はそこまで考えると何が正しいのか分からなくなる。何が善で何が悪か。今の自分には偉人の哲学が必要だ。
 愛。
 愛と何だろうか。
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