アクセサリー
 隆一は何もやる気になれなかった。
 自己嫌悪の嵐のなかにいる。
 いつかは対面しないといけない問題だったことは分かっていたが、目をつむっていた。見たくなかった。愛することが分からないゆえに、無理に女を求めていたのかもしれない。女といることですべてを忘れたかった。これに気付かないままでいたなら、その醜い欲望の毒牙で彩乃を犯そうとしていたのだ。
 嫌だ。
 煙のように消えてなくなってしまいたい。今日こそ、線路に飛び込んでしまおうか。隆一は自分の胸をかきむしった。 
 なんと自分は身勝手な自分だったのだろうか。弱弱しいアイデンティティを守っていたのだと思うと情けなく、みじめだ。生き恥だ。生きているだけで醜態をさらしているのだ。誰かさっさと撃ち殺して、終わらせてほしい。 
 そう考えると、アイデンティティなどなかったのかもしれない。ただ表面上を飾るだけ。表面上でしか見えない虚像を作ることだけに、気をつかっていたのだ。ただ人に格好よく見られたかった。人に承認されたかった。それだけかもしれない。

 誰とも会う気になれずに、二日、三日はアパートから出なかった。
ただ四日は学園祭の後片付けをしないといけない。といっても大学から借りた備品を返品するだけだ。その役目は大学二年の隆一と玄太郎の二人だ。ゴリメタルも同じ二年だが、吉祥寺でレンタルした機材を車で返品しに行ったということでこの役目を免除された。
 浮かない顔をしていることが鏡を見なくても分かる。自分の顔が見たくない。駅まで歩くときも、自分の顔が見えないように帽子を深くかぶった。窓ガラスや鏡に顔が映らないように、映っても見ないように、うつむきながら駅に向かって歩いた。
 誰にもかまわれたくない、話しかけられたくない。駅前のキャッチセールスに怯えるように、身をかがめながら中央線に乗った。
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