アクセサリー
 電車に揺られながら考えた。大学に着けば、屋台を片づけている学生に出会うだろう。知ってる顔がいるかもしれない。そう考えると怖くなった。少し遠回りになってしまうが、誰ともすれ違う確率の低いルートでライブをした教室に向うことにした。
 ただ玄太郎に会わなければならない。この角を曲がれば235教室だ。玄太郎がいるかもしれない。
 気心ゆるせる玄太郎なら会っても平気な気がするが、それでも久しぶりに人に会うのは抵抗があって、足どりが重くなった。ためらって、足が止まる。
 玄太郎にも会いたくない。誰にも会いたくない。
 畜生め。
 自分自身に腹が立つ。こんなことで躊躇してしまう弱い人間だったことが、まざまざと突きつけられて自己嫌悪の嵐が勢いを増す。
このままじっとしているわけにもいかない。はあ、と深いため息と深呼吸をかねて、大きく息を吐きだす。意を決して角を曲がった。

「ちょうどいい時間だね」
 時計を見るとちょうど午後一時。教室にはすでに玄太郎がいた。玄太郎はだいたい集合時間の少し前にいる。
「なんか浮かない顔してるね」
「別に……」
「ふうん……、とりあえず、この暗幕と……、スピーカーを返そうか」
「……ああ」
 そう言って台車にスピーカーを乗せた。
 ガラガラガラ……。
 他の教室はすでに片付いていて誰もいない。
 隆一と玄太郎の間には会話はなく、ただスピーカーを運ぶ。
ガラガラガラ……。
 静寂を切り裂いた台車の音だけが響く。
 隆一は台車の音があれば、沈黙もごまかせるような気がした。このまま玄太郎と会話せずに解散してしまいたい。
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