アクセサリー
「ねえ、なんかあったの?」
 隆一の期待を裏切って、玄太郎が口を開いた。
「いや……、別に」
隆一はぶっきらぼうに答えた。
「ふうん、でも何か変だよ」
 玄太郎は簡単に引き下がりそうもない。
「そんなことはないけど……玄太郎は? なんか楽しそうじゃん? いつもか」
「俺? 俺はもう……、今はまだ言えないけどさ」
「何かあるの?」
「まあ……」
「何?」
「今はまだなあ」
 顔がにやにやしている。何かいいことがあったのだろう。玄太郎は楽しいやつだ。おそらく何も考えていないのだろう。そんなふうに生きていける玄太郎がうらやましくなった。
 それから玄太郎は何もしゃべらなかった。そのまま備品を返品して終わり。そのまま解散。
「じゃあ」
「もう帰るの?」
「ちょっとね」
 隆一は逃げるようにして学校を出た。玄太郎は一緒に食事でもしたかったようだが。
中央線に揺られながら、隆一は考える。七日には彩乃に授業で会わないといけない。どんな顔で会えばいいのか。
 彩乃に対して小さな恋心を抱いた矢先の出来事だ。
彩乃は十八歳。十代と二十代では心の純粋度がかなり違う。それは経験上分かっている。隆一のような自分のことしか考えていない男と付き合うことになるのは、彩乃にとってよくない。隆一は彩乃にどう接していいのかも分からない。それに彩乃を傷つけてしまいそうだ。彩乃とは何もなかったことにして、しばらくひきこもっていたい。何も見たくない。暗く陰湿な世界で小さくなって、誰にも見られたくない。何もしたくない。

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