アクセサリー
「そうそう、ピカ子とだよ。理由は子供できたからなんだけどね。こないだ産まれたんだよ」
 そう言って携帯の画像を見せた。産まれたての赤ん坊が写っている。
「かわいい」
 液晶画面の中で笑う赤ん坊を彩乃がそっとのぞきこむ。
「男の子?」
「そうだよ。名前は『陸』」
「『陸』くんか……」
 玄太郎の血と肉を分けた子供がこの世に存在したのだ、と思うと不思議だ。実感がわかない。ただ、「へええ」と思うばかりだ。
「……『陸』ってさ、なかなか格好いい名前だね……、でもびっくりしたなあ」
 隆一は身近に結婚した人を見たのが初めてだったので、玄太郎が別に人間になってしまったように見えた。
「できちゃった婚だけどさ、すごいかわいいんだよ。陸が」
「へえ……、あっ、おめでとうございます」
 隆一は頭を下げる。
「おめでとうございます」
 彩乃もあわてて頭を下げる。
「俺の大事なお知らせってのはこのことだよ」
 玄太郎は携帯を閉じる。隆一はしばらく何も言えなかった。個人的にはできちゃった婚は否定的に考えている。しかし、身近な人間の場合だと、生命の誕生という高尚な出来事のように感じ、素晴らしいことに思える。しばらくの沈黙を破って玄太郎が言う。
「これにくっつけて言うのもなんだけど、気づいているわけでしょ? 彩乃ちゃんが隆一のことを好きなこと」
彩乃は急に言われてびっくりした顔になった。
「で、彩乃ちゃんはすごいがんばってるんだよ。気持ちに気がついているなら、何かしら返事しなくちゃだめなんじゃない?」
 一児の父となった玄太郎の言葉はいつもと違う。なんだか重みがある。
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