アクセサリー
「愛っていうのは、春の陽気な暖かさじゃなくて、冬の厳しい寒さを一緒に乗り越えるのものじゃないかな」
 隆一はうんうん、と首を振る。
「彩乃は愛についてそう考えてるんだ」
 隆一は少しうつむいてから、天井を見上げる。彩乃は隆一の様子をじっと見守る。彩乃は愛について本当にそう思っているのだ。
 隆一はゆっくりと口を開く。
「愛って何だろう? って考えたら何も分からなくなったんだ。そして俺は今まで自分のことしか考えてなかったんだことに気付いたんだ。急にこんな話だけどもちょっと聞いてくれないか」
 隆一は一度、天井を見上げ気持ちを整えて、話を続けた。
「俺は今まで格好つけようとしか思ってなかった。彼女もバンドも全部ファッション感覚で持ち合わせていたんだ。下手すりゃ彩乃のこともそうしたのかもしれない」
 彩乃は静かに聞いていた。
「でも、本気で彩乃が心配してくれたとき、俺はすごい感動した。俺が彩乃のかわいい服装に鼻の下をのばしても、彩乃に冷たくしても、彩乃はこんな俺を認めてくれた。俺は自分のことしか考えてなかったのに」
 隆一はそこまで言って、空になった紙コップを握った。
「彩乃のしてくれたことは、無償だよ。この無償の行為がすごいうれしくて」
「無償? そんな大げさな……」
 無償の行為、というと聖母マリアやナイチンゲールを思い浮かべてしまう。自分の行為がそれに匹敵するのだろうか。少なくとも隆一にはそう感じたようだ。
 ただ隆一のためなら何でもできるような気がした。そこには無償の想いがあって、無意 識に無償の行為があったのかもしれない。
「だから俺はもう決めたんだ。彩乃を愛そうって。表面的じゃなくて心から……。こんなことを聞くと変に思うかもしれないけれど……よく考えたことなんだ」
 隆一はしっかりと彩乃を見つめて言った。

「彩乃のことが好きだ。俺と付き合ってほしい」
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