アクセサリー
 彩乃はただ隆一を見つめていた。目の前に起こっていること。それは彩乃のことを隆一が「好きだ」と言っていること。
 目をぱちくりさせた。何かしゃべろうと口を動かそうとする。声が出ない。
 彩乃は体が熱くなった。それはうれしいから。隆一の告白にうれしい。なにより、隆一の見えなかった気持ち、知ることのできなかった気持ちをしっかり伝えてくれたのが、何よりもうれしい。
「……うん、よろしくお願いします!」
 なんとか声を出して、大きくうなずいた。
 
「あっ」
 彩乃は思わず声をあげる。
『トラベルカフェ』を出ると、クリスマスイルミネーションがきらびやかに点灯していたのだ。
 もう暗くなった空にイルミネーションが映える。さっきは分からなかったが、立ち並ぶ木々にも電球がセットされていたようで、サザンテラスは美しく輝いていた。もしかしたら隆一はこれを狙って、『トラベルカフェ』で時間稼ぎをしたのかもしれない。
「きれい」
 彩乃は少し早いクリスマスの風景に胸が躍った。
「行こうぜ」
 隆一は彩乃の手をひいた。温かい隆一の手が彩乃の手を握る。なんだか懐かしい感覚。ちょっと前のことなのに、懐かしく感じた。指と指をしっかりと絡ませながら、ぎゅっと握った。もうこの手は離さない。

 彩乃たちと同じように歩く人の群れ。これから恋人に発展するかもしれない男女や、腕を組んで歩くラブラブを見せつけるカップル、ベビーカーを押しながら笑いあう夫婦。
 あこがれていた恋人同士に、ついに彩乃もなれた。ただあこがれて眺めていたことが今まさに実現している。
 恋人になれたんだよね?付き合っているんだよね? と確認するように、隆一の手を握りなおす。
 会話などなくても視線が沈黙をうめる。顔を合わせれば二人はほほ笑む。
< 83 / 86 >

この作品をシェア

pagetop