お望み通り、迫ってあげようか
お望み通り、迫ってあげようか


何が起こるかわからないこのご時世、家のドアに鍵をかけないのは如何なるものか。そう思うのだけれど、今日も隣の部屋のドアノブはすんなりと開く。

まるでおいでと誘うように。


玄関先に履き捨てられたスニーカー。

それを見て、私はまったくコイツはしょうがないんだからと、そうっと向きを揃えて並べ直す。

そうしてさりげなく、その隣に自分の靴を置く。彼の大きな靴と並ぶと、私の靴は子供のそれみたいで滑稽だ。今日はちょっとシックなデザインを選んできたのに。


この部屋は玄関を開けて、すぐ右側に浴室がある。ジャーという水音と、微かに香る湿った匂いとアイツのシャンプーの香り。どうやらお風呂中らしい。

待ってればそのうち出てくるだろうし、それまでテレビでも見ていよう。そう思ってそこを通過しようとすると、「いやん、えっち」聞き慣れた声がして、なぜだか浴室の扉が開かれていた。


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