身代わり王女に花嫁教育、始めます!
サクルは下を向き、足もとの砂に半分埋まった布切れを拾い上げた。

それは、リーンが被っていた金の絹糸で織られたスカーフ。花嫁衣裳と同じ生地は、異国の花嫁がヴェールと呼ぶ物だった。

それをギュッと握り締め、サクルは腹の底から唸るような声を出す。


「おのれ――よくも、この私から花嫁を奪ったな」


砂漠に砂嵐はつきものだ。この井戸が砂嵐に見舞われたのはこれが初めてではない。だが、普通の砂嵐でこのような死体が転がるなど、あろうはずがなかった。

これは魔物の仕業に違いない。

しかし奴らが動くのは、不自然に水脈が動かされたときのみ。サクルがやったように、水使いがオアシスを作りあげたときなどだ。

それ以外は、よほど奴らが眠る涸れ谷に自ら入り込み、騒ぎを起こさない限りは襲われない。


「申し訳ございません! 突然のことで……何もわからぬうちに」


頭から血を流した兵士がサクルの前に連れて来られた。


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