身代わり王女に花嫁教育、始めます!
そこは、お世辞にも広いといえる場所ではない。天井は低く、小柄なリーンであっても中腰で動かねばならない。

アリーの背後に薄い光が見える。おそらくはそちらが出口。


「アリーどの? どうして剣を……」

「黙れ」


そのとき、リーンは他の可能性を思いついた。

目の前の彼はリーンを嫌っている様子だった。彼が主君である狂王に不満を持ち、その命を狙っていたとしたら?

王が正妃に娶ると決めたリーン……いや、バスィールの王女を人質に、王を殺そうとしても不思議ではない。


(そうよ……狂王は敵対する者だけでなく、臣下にも恐れられているというじゃない。サクルさまなら、わたしをこんな目に遭わせたりはしないわ!)


刃の切っ先がキラリと光った。


刹那――闇の中、風が斬られ、リーンは肌にピリッとした衝撃を受ける。

アリーの手にしたシャムシールが、リーンの首筋を掠めた。


< 172 / 246 >

この作品をシェア

pagetop