身代わり王女に花嫁教育、始めます!
とても逃げられるとは思えない。でも、何もせずに殺されるのは嫌だ。リーンはその思いだけで、薄い光に向かって逃げ出そうとした。

しかし、すれ違いざま、彼はリーンの手首を掴む。


「いやっ! 殺さないで! サクルさま、助け」


叫びそうになったリーンの口を塞ぎ、ザラザラした床にうつ伏せに押し倒した。そして背後から覆いかぶさってくる。


「馬鹿者! 静かにいたせ。騒ぐと魔物がやってくるぞ!」


その言葉にリーンはピタリと動きを止めた。


「闇に慣れた頃合だ。目を開けて、しかとあれを見よ」


アリーは後ろからリーンを羽交い絞めにしたまま、上半身を起こさせた。体を反転させ、先ほどまでリーンのいた岩壁の近くまでにじり寄る。

岩壁にはシャムシールが突き刺さっていた。

それも、岩肌と溶け合うようなこげ茶色のヘビと共に。


「ツノクサリヘビだ。巨大なヘビではないが、猛毒を持つ。バスィールの砂漠にもいるが、ここクアルンのヘビはより凶暴で毒も強い。あなたのような女性だと、ひと咬みで半日と持たぬ」


< 173 / 246 >

この作品をシェア

pagetop