身代わり王女に花嫁教育、始めます!
浅いすり鉢状になった地面のほぼ中央、目を凝らすと動物らしきものが横たわっていた。

毛色や大きさからいって、砂漠と平原の境くらいにいるといわれるシャガールではないだろうか。

バスィールに生息する他の猛獣よりだいぶ小柄で、市民の間で飼われている犬のような大きさだった。バスィール国内でも町から離れると何度か見かけたが、人が近づくと逃げていくので平気だ、と大人たちは言っていた。


遠目では生きているのか死んでいるのはわからない。

どちらにせよ、こんな砂漠の真ん中で出会う動物ではないだろう。


リーンが小声でそのことをアリーに伝えると、


「そのとおり、あれはおそらく砂漠に迷い込んだシャガール……異国ではジャッカルと呼ばれる小型の肉食獣でしょう。そして……先ほどの巨大な四肢の主でもある。あれが魔物の正体ですよ」


リーンは驚きすぎて言葉が出てこない。

涸れ谷の洞窟を彷徨う、砂漠で命を落としたシャガールの魂。それに悪魔が力を与え、上方に開いた風穴を通じて砂嵐に身を潜めてオアシスを荒らした。

リーンやアリーを砂嵐に巻き上げ涸れ谷に連れ戻ったのは、悪魔がカッハールの願いを叶えるため。

だが、魔物が落ちつくまでカッハールたちは洞窟内に入って来られず、先に気づいたアリーがリーンを連れ横穴に逃げ込んだのだという。


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