身代わり王女に花嫁教育、始めます!
(どうして? 何がどうなっているの?)


サクルに浴槽の中で自由を奪われ、水の塊を下半身に押し込まれそうになったときのことを思い出す。

あのときは水がリーンを拘束した。でも今は、空気が麻紐のように左右の足首に巻きつき、引っ張られていくような感覚だ。


「いやっ! やめて……殺すならすぐに殺して。躯は奪わないで」

「何を馬鹿な。なんのためにこの男の願いをきいてやったと思う? この男は狂王に匹敵する力が自分にある、と思っていたのだ。先代族長カハムは弟のアミーンを後継者にしようとしていた。この男はアミーンをそそのかしバスィールに追い払い、父のカハムを殺害した。アミーンは何も知らず兄を頼り……。弟を狂王に殺されたことにして、偽りの正義を口にした愚か者よ」


偽りはここにもあった。

アリーの言った『多くの人間の“偽り”が重なり、ドゥルジの目を引いた』その言葉を思い出す。


「ア、アリーどのは?」

「奴なら魔物と仲よく遊んでいることだろう。そうだな……まだ、喰われてはいないようだが。時間の問題だ」


カッハールはリーンの足先に触れながら言う。


「キャッ! 離して……」


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