身代わり王女に花嫁教育、始めます!
「現れたな狂王め……もう少しで貴様の花嫁を我が物にするところであったのに」


その場に立つクライシュ族の男がいなくなったとき、族長カッハールの声がした。


「カッハールか、それともドゥルジと呼んで欲しいか? 死体に群がるハエの分際で、よくも私の花嫁に手を出してくれたな」


サクルはリーンを腕に抱いたまま、確かにそう口にした。『私の花嫁』そして、このカッハールをはじめとしてクライシュ族の男たちはサクルを『狂王』と呼んだ。


リーンがそのことを尋ねる寸前、サクルの口が動く。


『ラビーウッ=サーニー、ジュマーダ・ル=ウーラー、ジュマーダ・ル=アーヒラ!』


砂漠の中を力の波動が走り、事切れた男たちの血だまりから、真っ赤な水竜が立ち昇った。血染めの水竜はカッハールに向かって飛びかかる。

だがそれを阻むように、カッハールは手を翳した。

いや、おそらくカッハールの中にいるドゥルジの仕業に違いない。悪魔は風で壁を作り、さらにはその風で水竜を散らした。


カッハールは獣のように吼えながら、剣をつかみサクルに斬りかかる。 

サクルは抱きしめていたリーンを背後に押しやり、両手でシャムシールを持ち直した。


< 204 / 246 >

この作品をシェア

pagetop