身代わり王女に花嫁教育、始めます!
サクルの袖なしの上衣にぎゅっとしがみ付いた。

トクンと心臓が大きく脈打ち、しだいに、トクトクトクと早くなる。それはサクルにとって不思議な感覚だ。

すでに腕の中にいるリーンをさらに自分のものとしたい、とはどういうことなのだろう。

それも完全に自分だけのものにしたい。

その感情は強烈な嵐となり、サクルの心を激しく揺らした。


「シーリーン……私は」

「どうぞ、リーンとお呼びください」


辺りにはクライシュ族のテントが転がっている。あのひとつにでも飛び込み、この場でリーンのすべてを奪ったとて、咎められはしないはずだ。


(ああ……しかし、婚礼が……いや、でも)


サクルが強烈な自己矛盾に陥っていると、腕の中でリーンがポツリと言った。


< 213 / 246 >

この作品をシェア

pagetop