身代わり王女に花嫁教育、始めます!
「まだ目が覚めぬなら、精霊を呼ぶ呪文を聞かせてやろう」


それは甘く淫らな誘惑。

リーンは躯をゾクリと震わせ、思わず流されそうになる。しかし、揺れを感じた直後、自分が馬上にいることを思い出し、目をしっかりと開いた。


「サ、サクルさま。何をおっしゃるのです!」

「お前が眠ったままでいるからだ」


リーンはようやく意識がハッキリしてきた。


サクルに抱きしめられたまま、日没直後に涸れ谷を出発し、砂漠の宮殿に向かったのだ。

トーブ一枚に身を包んでいたリーンはいつの間にかヤギの毛で作られた毛布に包まれていた。

それも上等なマーイズの毛布。クアルンの王都がある山岳地帯にのみ生息する牡ヤギの毛で織られている。異国で織られるカシミールの毛布に近いという。

とてもリーンのような侍女が使ってよい品ではなかった。


「申し訳ございません。うっかり眠ってしまって……サクルさまにご迷惑を」


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