身代わり王女に花嫁教育、始めます!

(2)浴室の作法

カリムから花嫁教育をすると聞かされた数時間後、リーンは立ち尽くしていた。

そこは大きなテントから少し離れた位置に建つ小ぶりのテントだ。


(これはなんなの? ここでいったい、何をするつもりなのっ)


大声を出して叫びたい衝動に駆られる。でも、それをしてしまうと、あまりにも王女らしからぬ言動だ、と怪しまれるだろう。


外はすっかり夜も更けており、肌寒い程度に気温は下がっている。

そのテントの天井はリーンの背丈の倍ほども高い。だが、広さは昨日リーンに与えられた部屋をひと回り大きくしたくらいか。


問題はテントの中。それは、とても砂漠でお目にかかれるとは思えない光景だ。

部屋の中央には石膏を固め、煌びやかなタイルを貼り付けた――どう見ても浴槽がそこにあった。


リーンが入った反対側にも入り口があり、そちらから数人の男たちが木桶を使ってせっせと湯を運び込んでいる。


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