なみだのほし−Earth Tear Chlonicle−


人は、生まれながらに星を負っている。
そして、それぞれ12の星は4兄弟の神の支配のもとに分けられている。

この地の神は、世界を成す四大要素。
風の兄神・水の弟神・火の姉神・土の妹神と人々は呼ぶ。

レネの守り星は風なのだと、ユマは教えてくれた。自由と好奇心の神は、まさにレネそのものだと笑って。

−また転んだ。
手をついて岩にすがって、レネはキッと前を睨んだ。レネの体より大きい岩が、まだ続く。
早く着かねば夜になってしまう。

この辺りは魔物がよく出る。隠れる場所もないし、人の足で逃げ切れるような甘い足場でもない。

それでもレネは登っていった。
ユマのために。

−風水火土にはそれぞれ清所と呼ばれる場所がある。風ならば山の頂、水ならば井戸、火ならば炉、土ならば畑、というふうに。
人は神に願を立てるとき、己の守り神の清所で祈る。
レネは、村で一番高い丘の頂上を目指していた。
一番の願いを叶えるために。

背中に感じていた夕陽が薄れていく。
辺りのオレンジは見る見る消えて、まだ冷たい初春の風が肌を刺し始めた。

「風の神様…」

守ってくれるはずの見えない風に、レネはつぶやいた。
−この何日かで、ユマの容態はすっかり悪くなってしまった。激しい病ではなく、透き通って消えてしまいそうに、弱っていくのだ。
ディニの薬湯を飲ませ、夜通し床のそばに付き添っても、ユマの命は指の間を擦り抜けていく。

「…絶対、死なせないで…」

夕方までの院の勤めを終えたディニが、今はそばにいてくれている。
彼は止めたけれど、レネはどうしてもと出て来たのだ。

「神様、あたしをそこまで行かせて…」

やっと、岩ばかりの丘の、頂上が見えたとき。
レネは、風の中に微かな警報を聞いた。
狼族の遠吠えだ。

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