なみだのほし−Earth Tear Chlonicle−
◇
「もうだいじょぶだ…」
大きく息をついて、レネはつぶやいた。
森のはずれの大木の上で。
…狼の声を聞いた岩場からは、まだいくらも離れていない。でも、下手に村まで逃げ帰るよりも安全だ。彼等は木には登れない。
あの遠吠えは、獲物を見つけたときのそれだ。自分が獲物とは限らないが、だとしても巻き添えをくうわけにはいかない。
ユマが待ってる。
−…今まさにレネが行こうとしている、岩の丘の頂上。どこからか現れた狼が辺りをかぎまわっている。
大きい。
森の端のこの木からは、丘の上が見渡せる。つまり、あちらからも丸見えだ。
そのとき。丘の上の一頭が吠えた。
月に届くばかりに細く高く。
息を飲み込んだレネの目に、次の瞬間飛び込んで来たのは血も凍る景色だった。
−さっきまで彼女が昇っていた岩場に、数十頭の狼が駆け降りて来たのだ。
不意に吹いた風が、獣臭さを運んで来た。
「…よかった。風下にいたんだ…」
獲物はレネではないらしい。
それでもまだうかつには動けない。
「でもなんでこんなに下まで群れが下りて来たんだろう…山脈の上の方の荒れ地に住んでるはずなのに。」
上の草場に山羊を放していると、夜の間に1、2頭消えていたりする。その程度の被害を被るだけで、人が出くわすことも襲われることもほとんどない。
高地によほどエサがないのだろうか。
とにかく、村の大人に知らせなければ。
レネが、そろそろと木を下り始めた時。
夕闇をつんざく吠え声が、狂ったように響き渡った。見れば、20頭以上にふくれた狼たちが、一斉に丘を駆け下っていく。
−その、向かう先に。
「!?人だ!!」
小さな人影が、獣たちの先頭を切って駆けている。追われているのだ!
「もうだいじょぶだ…」
大きく息をついて、レネはつぶやいた。
森のはずれの大木の上で。
…狼の声を聞いた岩場からは、まだいくらも離れていない。でも、下手に村まで逃げ帰るよりも安全だ。彼等は木には登れない。
あの遠吠えは、獲物を見つけたときのそれだ。自分が獲物とは限らないが、だとしても巻き添えをくうわけにはいかない。
ユマが待ってる。
−…今まさにレネが行こうとしている、岩の丘の頂上。どこからか現れた狼が辺りをかぎまわっている。
大きい。
森の端のこの木からは、丘の上が見渡せる。つまり、あちらからも丸見えだ。
そのとき。丘の上の一頭が吠えた。
月に届くばかりに細く高く。
息を飲み込んだレネの目に、次の瞬間飛び込んで来たのは血も凍る景色だった。
−さっきまで彼女が昇っていた岩場に、数十頭の狼が駆け降りて来たのだ。
不意に吹いた風が、獣臭さを運んで来た。
「…よかった。風下にいたんだ…」
獲物はレネではないらしい。
それでもまだうかつには動けない。
「でもなんでこんなに下まで群れが下りて来たんだろう…山脈の上の方の荒れ地に住んでるはずなのに。」
上の草場に山羊を放していると、夜の間に1、2頭消えていたりする。その程度の被害を被るだけで、人が出くわすことも襲われることもほとんどない。
高地によほどエサがないのだろうか。
とにかく、村の大人に知らせなければ。
レネが、そろそろと木を下り始めた時。
夕闇をつんざく吠え声が、狂ったように響き渡った。見れば、20頭以上にふくれた狼たちが、一斉に丘を駆け下っていく。
−その、向かう先に。
「!?人だ!!」
小さな人影が、獣たちの先頭を切って駆けている。追われているのだ!