なみだのほし−Earth Tear Chlonicle−

「…村の方へ行っちゃう…」

小さな人影は、追い詰められるように丘を下っていく。ユマのいる村へ。

不吉に黒い影たちは、見えなくなった…

山間にこぢんまりと散らばる小さな村。
狼などに襲われたらひとたまりもない−

「−こっちへ!!森へ逃げろ!!」

思わず叫んでいた。
追われているよそ者のためじゃない。

「お願い、こっちへ!!」

レネは木から飛び降りた。根と岩に足をとられて地面を転がる。構わずに岩場へ飛び出して、獣の後を追って走った。
−だめだ。村へ逃げては。だめだ!

「こっちだ!!」

…遠ざかる狩りの鳴き声が、止まった。……戻ってくる。

レネの胸の奥に、感じたことのない炎が燃え上がった。
−守られる事しか知らなかったレネには、初めての気持ち。

丘の稜線に、再び黒い影が現れた。
それを見た瞬間、レネはきびすを返して森へと走り出した。

危険を遠ざける。村から。何より、ユマから。導いてみせる。

振り返ると、見知らぬ小さな人影がすぐそこに迫っていた。かなりの速さで逃げてくる。
マントでよくは分からないが、大人ではない。山奥の隣村から来たのだろうか?

−森の中を駆け登る。
岩場に生えた木々は、根がむき出しで足場は最悪だ。

背後の足音は確実に近まっている。
−子供のそれも、狼たちのそれも。
もう、獲物を追い詰める息遣いが聞こえてくる。

「こっち!」

この森を抜けた草地まで行けば。獣たちはあきらめて自分の縄張りへ帰るだろう。
その前に木に登ればいい。

「追い付かれる前に木の上に!」

−迫ってくる。
もてあそぶかのような息の音が、もうすぐ背後にある。

追い付かれる…

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