なみだのほし−Earth Tear Chlonicle−


レネが駆け出した黄昏れ時から遅れること数刻。
青き山脈の彼方西方に栄える国・ジラルダは、黄金の陽の中にあった。

世界の心臓、王都アメスを抱いて流れるライネ大河の中洲に、鳥が翼を広げるように、王城"紫の宮殿"が建っている。

外壁から内装に至るまで全て紫水晶を積み上げて作られた城。全体が半透明の紫色で、朝日が照らせば深奥にある玉座の間までが透けて見えると言うが、今は夕刻。
金色の陽に照らされて暗い色に沈み、眠るように静まっている。


「−やられたな」

その、一番高い窓辺にたたずむ男がいた。

「ほとんど1年ぶりに奴の影をとらえたまたと無い好機ぞ。次はいつ会えることやら。」
外の夕日が強すぎて、窓ガラスにもたれている彼の顔は影になって見えない。

男は、この国の王子であった。

「我らの"名無しの"弟は出来る子ですよ。兄上」

答えたのは、部屋のど真ん中に陣取った机に座った若い男。
彼もまた夕日に背を向けていて、その表情は知れない。

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