なみだのほし−Earth Tear Chlonicle−
◇
力があったら。
大事なものを傷付けなかったかもしれない。
力があったら。
大事な人の大事な人を、守れたかもしれない。
…ディニの手は、下ろされたまま固く握られていた。
どうにもできない、世の定めを前にして。
「…レネ。」
小さなベッドに横たわったユマには、もう起き上がる力はなかった。
「ユマ…」
ユマの手を握るレネは、ずっとずっと泣き続けている。
零れ落ちる涙を受け止めたいのに、そんな力もない。彼女が、ディニの方を向かない限り。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
レネの背は震えている。
長い黒髪も一緒に震えて、なにか別の生き物のように見えた。
ユマはただ優しく妹をなでた。
「…私のために、お祈りに行ってくれたんでしょう…?ありがとう、いいの、謝らなくて…」
それまでずっと伏せていたレネが、突然顔を上げた。
傷ついたその横顔はディニの心の奥まで、深く深く斬りつけた。
美しすぎる刃のように。
「違う…の…行けなかったの…あのね、ユマ、」
さっき山で起こった事件を、レネは消えそうな声で語った。
−その間にも涙はコロコロと零れ続けた。
ディニは、それを綺麗だと思った。
誰かのために零す涙は、どんな宝石よりも美しくて悲しい。
「…助けられたの。知らない男の子に…狼は追っかけて来なかったよ…、それでね、」
ディニには、レネの話など少しも聞こえなかった。彼を沈めているのは、薬士として患者を助けられない悔しさと、大切な幼なじみを守れない悔しさ。
「…いいの。レネ、いいのよ。あなたが無事なら、それだけで。あなたが、生きていけるなら…」
ユマの優しい指が、レネの頬をなぞる。
「ごめんね、レネ…」
力があったら。
大事なものを傷付けなかったかもしれない。
力があったら。
大事な人の大事な人を、守れたかもしれない。
…ディニの手は、下ろされたまま固く握られていた。
どうにもできない、世の定めを前にして。
「…レネ。」
小さなベッドに横たわったユマには、もう起き上がる力はなかった。
「ユマ…」
ユマの手を握るレネは、ずっとずっと泣き続けている。
零れ落ちる涙を受け止めたいのに、そんな力もない。彼女が、ディニの方を向かない限り。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
レネの背は震えている。
長い黒髪も一緒に震えて、なにか別の生き物のように見えた。
ユマはただ優しく妹をなでた。
「…私のために、お祈りに行ってくれたんでしょう…?ありがとう、いいの、謝らなくて…」
それまでずっと伏せていたレネが、突然顔を上げた。
傷ついたその横顔はディニの心の奥まで、深く深く斬りつけた。
美しすぎる刃のように。
「違う…の…行けなかったの…あのね、ユマ、」
さっき山で起こった事件を、レネは消えそうな声で語った。
−その間にも涙はコロコロと零れ続けた。
ディニは、それを綺麗だと思った。
誰かのために零す涙は、どんな宝石よりも美しくて悲しい。
「…助けられたの。知らない男の子に…狼は追っかけて来なかったよ…、それでね、」
ディニには、レネの話など少しも聞こえなかった。彼を沈めているのは、薬士として患者を助けられない悔しさと、大切な幼なじみを守れない悔しさ。
「…いいの。レネ、いいのよ。あなたが無事なら、それだけで。あなたが、生きていけるなら…」
ユマの優しい指が、レネの頬をなぞる。
「ごめんね、レネ…」