なみだのほし−Earth Tear Chlonicle−
◇
「…おかしい」
時刻はすでに夜半。
ラグーは、未だに崖の中腹に潜んでいた。
『どうかなさいましたか?』
姿無きテテムの声が、ささやくように問うた。
「襲撃がない…」
夕刻の闘いから何時間も過ぎている。
村を見下ろす崖の中腹に張り出したこの足場は、確かにいい隠れ場所だが。
「あれは使い魔。特に術者の命令がなければ、ただ俺を追うだけの知能しかないはず…」
『隠しの結界は張ってございますが…テテムの力は守りに弱い…。とっくに見つかっていようものを、なにゆえ?』
急斜を伝って、風が村から吹き上げる。
土と、水と、息吹き始めた若い緑の匂い。
荒れ果てた地を越えて来たラグーには、和まざるを得ない、そんな匂いだ。
次にいつ出会えるか分からない平和な風を、若い旅人は肺いっぱいに吸い込んだ。
−かぎなれた臭いがした。