なみだのほし−Earth Tear Chlonicle−



「…おかしい」

時刻はすでに夜半。
ラグーは、未だに崖の中腹に潜んでいた。

『どうかなさいましたか?』

姿無きテテムの声が、ささやくように問うた。

「襲撃がない…」

夕刻の闘いから何時間も過ぎている。
村を見下ろす崖の中腹に張り出したこの足場は、確かにいい隠れ場所だが。

「あれは使い魔。特に術者の命令がなければ、ただ俺を追うだけの知能しかないはず…」
『隠しの結界は張ってございますが…テテムの力は守りに弱い…。とっくに見つかっていようものを、なにゆえ?』


急斜を伝って、風が村から吹き上げる。
土と、水と、息吹き始めた若い緑の匂い。
荒れ果てた地を越えて来たラグーには、和まざるを得ない、そんな匂いだ。

次にいつ出会えるか分からない平和な風を、若い旅人は肺いっぱいに吸い込んだ。



−かぎなれた臭いがした。


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