なみだのほし−Earth Tear Chlonicle−


「ディニ!いる?」

早春の、冷たい夕暮れ。
薬草やら香草やらが生い茂る庭の入口で、レネは叫んだ。周囲の森にその声はこだまし、また静まった。

やがて、広い庭のはるか奥の建物から一人の少年が現れた。

「…うるさいな。頼むからいい加減ここが病人のいるとこだって覚えてくれないか?」

やってくるなり呆れ顔の少年を、レネは大きな瞳で挑発的に見上げた。

「あら。あたしの声を聞くとと生き返るようだって、患者さんたちは言うわよ?だから大声で知らせてるのよ、レネが来たよって」
教会に付属して作られたこの施薬院の跡取り息子であるディニは、深くため息をついた。
「あのさ。ここは本来教会なんだ。患者さんたちは、身体を癒すのと同時に神の教えを学んでる。修行に雑音を入れないでくれよ…」
そう言う彼も、神への信仰に生きる道士の卵である。

説教されている当のレネはといえば、スカートにくっついた草の種をはがすのに熱中していて、生返事すら返さない。
どこを駆けて来たのか、髪も服も枯れた種まみれだ。

毎回のように繰り返す自分の説教にため息をもうひとつついて、ディニはまた口を開いた。

「…レネ、君もう14だろ?っていうか来月には15歳で成人だよ。せめて人の話を聞くくらいのことはできないと。ユマだっていつまでも君の保護者でいてくれるわけじゃないんだよ?」

姉の名が出た瞬間、自由奔放に育った少女は顔を上げた。

「、そうだ、またいつものがいるの。作ってほしいんだけど」

その表情はもうふざけてはいない。迷子になりそうな子供の不安げな顔。

「−また悪いの?」
「うん。」

ディニは、レネを手招いて施薬院へと歩き出した。

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