なみだのほし−Earth Tear Chlonicle−

彼女は、よそに預けていた両親の忘れ形見だと言って紹介してまわったが、彼女の家の誰とも、その幼児は似ていなかった。

金髪と鮮やかな青い瞳を持つユマの腕に抱かれたその子は、豊かな黒髪に漆黒の瞳をしていた。
だがユマの人柄のお陰で、子供は村に受け入れられ、大きくなった。

レネと名付けられたその子は、風のように自由で陽のように明るく、みんなの微笑みをよぶ娘に成長した。

捨て子だったのだろうと、皆は言う。

レネ自身はそんな生い立ちは聞かされていない。
でもレネは時折、迷子のような顔でうつむいていることがある。世界の誰とも、本当はつながってはいないという孤独を、知っているかのように。

ディニは、そんな彼女を大切に思っていた。鷹みたいに強気で自由なレネは、同じだけ寂しがり屋だ。寂しいから強がる。


一度捨てられた彼女が、ユマを失えばまたひとりになってしまう。
同い年の優しい少年は、彼女がここへ来るたび心配でならなかった。


「…できたよ。食事のあとだからね。」
「ありがと。」


小さなつぼを受け取り、ディニに銅貨を渡すと、レネは風のように庭を駆け戻って行った。

−ユマがもしものときは、レネは引き取ると父は言う。嫁に行くまで世話を見て、親がするべきことはみんなすると。

でも、ディニが心配なのはそんなことじゃない。生活がどうとかじゃなくて、レネがひとりになってしまうことだ。
本当のひとりになってしまうことだ。


……そしてひとりになったとき、レネは、自分に手をのべてくれるのだろうか。
孤独の中で、自分を必要としてくれるだろうか。

ディニは、大切な大切な少女が去って行った方を、いつまでも見つめていた。


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