らくがきレター
〈キーンコーンカーンコーン♪〉
これじゃあ完全に授業遅刻だ。
別に構わないけど。
あたしは友達の忘れ物を取りに、ついて行ってる。
せっかく階段登ったのに。
あと一階登ると理科室というところで、優芽が話しかけてきた。
「あたしのせいでごめんね。遅れちゃって」
「いいよ。どうせ最初は井田センの話だけだし」
井田センとは井田先生の略称。
喋り方が独特で、聞き取りづらいと不評だ。
「だよね~♪井田センすぐ許してくれるし」
というか、ごめんと言っているわりにはなんで歩いてんの?って感じ。
言葉に気持ち込もってないの丸出しだし、発言と行動を一致させてほしい。
あたしたちは理科室に入った。
「山野さん、成瀬さん、今度は遅れないようにしようじゃないですかぁ」
するとみんなから一気に笑いが起こった。
この話し方が変なんだ。
「し」を強調させるから。
あたしと優芽は席に着いた。
あたしはこの前のラクガキを見た。
『お前はしあわせ?』
その下にはこの前あたしが書いた
『しあわせ....じゃないです......』
そのもう一つ下には
『恋愛してないから?』
・・・・少し、当たってる。
理科の授業なんか耳を傾けることなく答えを考えた。
この人には真実を伝えたい。
何故か、そう思った。
「成瀬さん?こっち向こうか?」
井田センに目をつけられただろう。
でもそんな事気にしてたら書けないじゃん。
「ハイ」
愛想笑いをしておいて、その場の空気を保った。
一応、クラスの中でクールキャラなんでね。
鼻で笑う感じですけどね。
彼氏っていう存在が欲しいんじゃなくて、あたしを信じてくれる人が欲しいんだ。
だから話した事もない男の人に告られるといらつく。
性格知ってて好きなの?って。
井田センが黒板と向かいあわせになったとき、あたしは再びラクガキを見た。
『恋愛してないから?』
あたしは返事をササッと書いた。
井田センにバレるとややこしいことになるから。
『あたしの真の笑顔を取り戻してくれる人がいないから』
あたしには本当の笑顔がない。
あの日から――――――――