折り鶴にのせて
 家に帰って窓際にある机に持って帰った2連の折り鶴を飾る。
 それから数日はこっそり鶴たちに「ただいま」とか、「おやすみ」とか声をかけた。
勉強中、だらだら漫画を読んでいるとき、部屋にいるときには無意識に見るようになっていた。
チラッと見ては自然と微笑んでいた。

 そんな日が続いたある日学校に行くと、菊地君の周りがざわざわしていた。
 特別なテストがあったわけでもないし、菊地君の誕生日ってわけでもない。だいたい男子の誕生日でこんなにわいわいしない。
「何かしたの?菊地君」
 先に来ていた友達に訊ねると、ニヤッとしながら答えてくれた。
「なんか日曜日に菊地君と女の子がデートしてるとこ尾白君とかが見たんだって」
 それはつまり…
「彼女?」
「うん。本人も認めてるよー!菊地君に彼女出来たってねぇ、意外ー」
「ねぇ」
 冗談であれと思っていたのにそれは現実で、テキトーに相槌を打って1人席に戻る。

 いつも通りに授業を受けて、いつも通りに宿題の見せ合いっこをして、いつも通りに笑った。
でも、やっぱりいつも通りには彼を見ることが出来なかった。

 なんでだろう、今日はいつもより彼の声がよく聞こえる。
聞きたくないのに。
聞こえる度に胸がギュッと締め付けられる。

「ただいま」
 こんな日でも無意識に声をかけてた。
2連の折り鶴を見たとたん目頭がじわっと熱くなる。
 空気を入れ換えようと窓を開けると、爽やかな風が吹き込んで私を優しく撫でていく。
 一際強い風が吹くと窓際の2連の折り鶴が秋の空へと飛んでいった。
 私の淡い恋と悲しみを乗せて。
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