あやなき恋
「…おぉ!えらいべっぴんさんやなぁ」
紺色に大きな睡蓮の模様の着物。
シャツにジーンズだったさっきの姿とは雰囲気もガラッと変わる。
「さっきの言葉…、ホンマや。ホンマに惚れてまうよ」
「ヒナを落とすのは大変ですよ、南さん」
「もう、やめてくださいよママ」
私はママの言葉に苦笑して、南さんの隣座った。
「せやかて、恋愛はご法度やないやろ」
「えぇそうですけど」
「…私それ聞いたことないです」
どんどん進んでいく二人の会話に、私は口を挟んだ。
「ヒナちゃん男はおるんか」
「私はホステスですよ、恋人なんて」
南さんはまたニッと笑って
「ほんなら、立候補や。ママの許可も貰えそうやしな」
……この笑顔、素敵。
「南さん、ウチの働き手を取られたら困ります」
ママも南さんの言葉に呆れたみたいで、やあね、と私に飲み物を出した。
「21かてええ年やんか。恋愛のひとつやふたつしてもええと思うで」
「…もう、それ以上言ったら怒りますよっ」
私は眉をひそめて、南さんにお酌した。
「不機嫌なとこも可愛ええよ…あっいてて、堪忍したってぇなヒナちゃん」
私は調子のいい南さんの手をつねった。
自分の感情を抑えるため、でもあったけれど。
南さんはそんな私の行動に驚いて、また笑った。
***
「ヒナ、3番テーブルお願い」
ボーイの陸さんがひょこっと顔を出した。
南さんと話しているのは楽しくて、もう開店時刻をまわっていた。
「でも…」
そんな時に他のテーブルからの指名。名残惜しそうに南さんを見ると
「ええよ、行ってきいや。オレはママとちょい話しとるけ」
「…はい、では失礼します。またお話したいです」
小さくお辞儀し、私は3番テーブルに向かった。