あやなき恋



「お疲れ様でした」



「お疲れヒナ。南さんがよろしく伝えてくれって」



「本当ですか!嬉しいです」



お客様が帰った後フロアの掃除を済ませ、私も帰宅することにした。



「お先に失礼します」



あれから立て続けに指名が入り、手が空いた頃には南さんはいなくなってしまっていた。



南さんは次から次へと話をしてくれるからとても楽しかった。



だから、きっと名残惜しいだけ。



私はそう自分に言い聞かせた。



このお店はマナーをわきまえたお客さんばかりで安全だけど。



所詮はお水



決して綺麗な世界じゃない



だから誰かを頼るとか、ましてや好きになるとか



一番奥底の心を誰かに開くことは苦手だった。



……苦手にしていた。



本当は誰かに思い切り甘えたいけど、私にはやらなきゃいけないことがあるから。



ママには悪いけど‘こんな世界’でも私は頑張って行かなきゃいけない。



「ただいま」



人のいないドアを開け、電気をつける。タバコとお酒と香水の匂いが交ざって少し気持ち悪かった。



早くシャワーを浴びて寝よう。



今日はなんだかいつも以上に疲れた。



ふと浮かぶ南さんの顔



『惚れてまいそうや』



カァと顔が赤くなる



私はしっかりなんかしてないよ。



甘い言葉に弱い。



……あれは、営業トーク。



きっと、ママの顔を立てるためについたウソ。



社会人にもなって、そんなこともわきまえれないなんて、バカみたい。



ホステスに向かないと思う瞬間だ。



本来ならお客様を癒したり、お酒の相手になるもの。



逆に相手されてどうするんだ……



私はため息をついて、シャワーの蛇口をひねった。



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