あやなき恋



それから私は布団を干して、窓を開けて部屋の掃除をした。



前に住んでいた実家も居やすいものではなかったけど



今は今で、借りている部屋というのは何だか毎日掃除してもし飽きなかった。



私はそれらを一通り終えると、買い物に出掛ける。



今日は水曜だっけ。



最近では近くのどこのスーパーが何曜日に安売りしているのかも覚えた。



私は靴を履いて玄関をでた。



「あら、桐生さんおはようございます」



このアパートの大家さんだ。



「おはよう仲島さん。今日もお仕事かい」



桐生さんは植木鉢にお水をやりながら、私に声をかけた。



「えぇ、ママがよくしてくれてるので。今からは買い物です」



「うんうん。いってらっしゃい」



桐生さんにママの名前を出すと、少し耳が赤らむのが分かる



きっと桐生さんはママに好意を寄せてる。



だから、私が入居する時は家賃まで安くしてくれたし。



それを何食わぬ顔でこなすママは本当にプロだと思う。



自分に好意を寄せていると知りながら、それ以上にもならない関係を長年保つのだから。



ホステスが誰かを好きになるときは引退のときだって先輩の菜々子さんも言っていた。



そりゃあホステスが特定のお客様を特別扱いするわけにいかないもんね。



それに比べて私は予約が入っただけで舞い上がって…仕事だと言うのに。



気ままな猫は猫なりに頭を使う。


私は確かに今まで気ままに生きてきたけれど


辛いことから逃げてきたとも言える。



だからたまに感じる小さな罪悪感を私はどうすることもできない。


でもいまさら



自分の生き方を変えるのは怖くて、何もできない私



さっきまで自分の変化に喜んでいたくせに。



やっぱり怖がりな自分。



< 14 / 55 >

この作品をシェア

pagetop