あやなき恋
私は家族から逃げてきた
酒と賭け事に溺れた父に家族みんなが悩まされた。
きっと父さんだってそう
どこかで悪いとは思ってるんだろうけど
なかなか一歩が踏み出せない、というように
母だけは私を守ろうとして、何度も父と向き合っていたけれど
今ごろみんな何してるんだろ
もうバラバラなんだった…
それに、汚れた私なんか見たくないだろうな…
私は寂しくなった気分を紛らわすかのように足取りを早めた。
***
「いらっしゃい」
気さくなおばさんの八百屋。
初めてお店に行ったときはお使いだと勘違いされたけど
私が一人暮らしをしていると知ってからは、いろんなことを教えてくれる。
「今日はさつまいもがいいんだ。おいもご飯なんてどう?」
私に大振りのさつまいもを見せながらおばさんは言った。
「そうですね。おかずはどうしましょう…」
私は野菜を見ながら聞いた。
「秋刀魚が美味しいよ、姉チャン」
向いの魚屋のお兄さんが、通る声で私に呼び掛けた。
「ちょっと鷹、営業妨害だよ!」
おばさんも負けじと声を張る。
「じゃあさつまいもと秋刀魚いただきます」
私はいつもこれに圧倒されてしまう。
「秋刀魚には大根おろしだよ。これ持っていきな」
おばさんはそういって4分の1くらい切られた大根を袋に入れてくれた。
「いいんだよ。他が傷んでて売り物にならなかったんだから」
と私に袋を握らせてくれる。
「ありがとうございます」
「ほらよ、姉チャン。こっちもまけといたぜィ」
魚屋のお兄さんもシジミのが入った袋を入れてくれた。
「味噌汁でもこさえなァ」
「はい、そうします」
私は笑顔で手を振って、次のお店へと向かった。