あやなき恋
逃げてきたこの町は、本当に暖かい。
ママも大家さんも、それにさっきのお店の人も
名前とか年齢とかそんなの知らないけど、
みんながお互いのことを支えていて。
私もその一部になれたら、と思う。
私は二種類の袋を握りなおして、歩き始めた。
***
「ただいま」
その後、私は牛乳と卵、ベーコンをスーパーで買って家に帰った。
買ってきたものを冷蔵庫にしまって。
おばさんに教えてもらった通りにさつまいもの皮を剥いてご飯を炊かす。
それから少ない洗濯物を干して、秋刀魚を焼いて、お味噌汁を作りはじめた時
ピンポーン、と
インターホンが鳴った
「はーい」
一旦手を洗って、玄関のドアを開けると
そこには同じクラブで働いている菜々子さんが入ってきた。
「や、ヒナおはよう」
「おはようございます」
私の、憧れの先輩の菜々子さん。
同じアパートの2階に住んでいて、こうしてよく遊びにきてくれる
「や~美味しそうな匂いがしたからさ」
大体は同じ理由。
私もそれを分かっているからご飯は多めに作っている。
「ヒナは本当にたくましいよ」
「菜々子さんのそういうとこが人気なんですから」
菜々子さんはそうかなぁ、と言いながらソファーに寝転んだ。
「お昼もうすぐ出来ますけど食べますか」
「あたしが食べに来たのわかってて聞いてるでしょ意地悪」
私も笑いながら、ご飯の支度をする。
菜々子さんは根っからの猫だ。