あやなき恋
***
「おはようございます」
お店のドアを開けて、パチンと電気をつける。
菜々子さんはあれから昼寝をして、支度をすると言って部屋に戻っていった。
「あら、気合い入ってるのね」
ママがカウンターで経営やらの計算をしていて、普段はかけていない眼鏡を外してこちらに顔を向けた。
「こんなことってなかったから…緊張しちゃって」
「南さんはヒナに甘えてもらいたいんじゃないかしら」
「そんなことないですから」
私はホウキをロッカーから取り出して掃除を始める。
奥のフロアからテーブルの下、カウンター席を掃いた。入り口の階段までやって、看板を拭く。
【Cats】
黒い猫の影に白く彫られた文字
私はその文字をゆっくりなぞって
また掃除をしはじめた。
***
「ようこそ、いらっしゃいました」
次から次へとやってくるお客様にママは丁寧に出迎える
もうとっくにお店はオープンしているというのに
南さんてば何してるんだろ
きっと忙しいんだろうから、と私はバックルームで一人ごちた。
何考えてるんだか……私
いつもなら早く過ぎる時間も、今日は開店の時間までとても長く感じた。
まだ来ないのかなぁ…
私はソファーに座っているのも落ち着かなくて
個室に不備がないか何度も確認しに行った。
それからずっと考え事をしてみたり。
ママの声に私は気が付かなかった。
「ヒナ」
ママがバックルームのドアを開けた。
「ヒナ、お客様がお見えです」
とニコニコ言った顔がでてきて
私は飛び上がりそうだった。