あやなき恋
「はい、すぐ行きます」
胸が高鳴るのを感じながらは私はそれを隠すように静かに廊下を歩いた。
南さんに似合うような、大人の淑やかな女性を演じようとした。
「ヒナです、失礼いたします」
正座をし、ふすまに手をかける。
スーッとふすまが開いて顔をあげると
「ども、ヒナちゃん」
ニッと笑う南さんの顔とぶつかった。
先ほどの決意はどこかへ、南さんを見ていると、安心する自分がいた。
「こっち来てや」
自分の隣をポンポンとたたき、私はゆっくりと立ち上がった。
「今日はありがとうございます」
「ええんよ。ヒナちゃんとぎょうさん話したかったけ」
南さんの言葉に私は自然とはにかむ。
「私も南さんのことたくさん知りたいです」
「教えたるよ。先に飲み物頼むさかい。とりあえずビールや。今日の働きを労わな」
「はい」
それからいくつか料理を頼み、私は南さんの仕事について聞いていた。
「今日はお仕事だったんですか」
「せやで。帰り道が混んどってなぁ…来るの遅れたけ。ヒナちゃん待っとったやろ」
「あっ、責めてるわけじゃないんですよ!落ち着きなさいってママには怒られちゃいましたけど…」
私は運ばれてきた前菜を並べながら言った。
「この時間が楽しみで仕方なかったんです。こうして、会いに来てくれて……、今日もお疲れさまです」
私は南さんが持つグラスにビールを注いだ。
「ママもさっき言うとったで、ホンマ嬉しいわぁ。さ、ヒナちゃんも飲み。酔ったとこ見せてや」
「はい」
私は自分のグラスにも注いで、南さんと乾杯した。