あやなき恋
「ホンマおもろいやっちゃ、ヒナちゃんは。俺をよいしょしても何もでてこんよ」
「そういうわけじゃ…だって南さんていつも笑っていらっしゃるでしょ」
「こん俺からは真剣な表情なん創造できひんかったんか」
南さんは笑いながら悪態をつく。
「悪い意味じゃないんですよ。私、南さんのこと知りたいって言ったでしょう。何だか少し知れた気がしました」
「女はそういうの弱いやろ」
いたずらっ子のような笑顔を向ける南さん。
「あっ、狙ったんですか…」
私は空いたグラスにビールを注いでいく。
「今のはちゃうよ。…うーん、俺の職業柄、人と接するやろ。せやからそういう時は役立つねん」
南さんはビールをぐいっと飲んで話を続けた。
「いつもはニコニコニコニコ。商談つけるときだけ、さっきみたいな顔すんねん。一つのテクニックやな」
「私はそんなテクニックに見惚れてたんですか」
私も負けじと眉をひそめて南さんを見た。
「せやからちゃうって言ったやろ。癖になってもうてるから、堪忍してや。それにテクニックはヒナちゃんかて同じやろ」
「私もですか」
「せや、お客はんに気に入られることは大事やろ。けどな…」
南さんはまた笑って
「…やっぱヒナちゃんのはテクニックやないなぁ、必要あらへんもん。普通に話してて誰もが虜になる」
「南さん……」
私は複雑な思いだった。
私をほめてくれるのは嬉しいけど、でもやっぱりそれは私がホステスであるからからであって。
一人の女としてではない。
チクリと胸に針がささる。差したのは自分だ。楽しい時間を台無しにしてしまう。
「そん顔は分かってへんな」
南さんは、体をこちらに向けて私の顔を覗きこんだ。