あやなき恋
「あの」
私はおずおずと話し掛けた。
「私でよかったら話聞きますから……」
「ヒナちゃん」
私が南さんの肩に置いた手に重ねるように南さんのそれが置かれる。
大きな大人の手。
南さんは、一体どれだけの重荷を背負って生きているんだろうか。
「また今度でええか?何て話したらええんやろな…まだ分からん」
「そうですか…分かりました。すみません、差し出がましいですね」
「いやいや、自分からこないな姿見せといて…堪忍な。今日は飲んで忘れるさかい」
南さんはゆっくり起き上がると、次から次へとお酒を注文していった。
私は頼んだお水もほどほどに、それを止めることも勧めることも何もできない。
ただ、南さんのグラスが空になったらお酌するだけ。
南さん……大丈夫かな。
もう何本もビンを空けて。
空になったそれらが床に散乱していて。
私は、何もできない状態が辛かった。
「これで…最後にするけ」
さっきよりも顔が赤くなって、目がトロンと落ちている南さん。
「私は…いつでも南さんの見方です」
私はそう言って、今日最後のお酌をした。
「おおきに」
短く、南さんはそう笑ったけど。
私にはその表情があまりにも辛そうで
最後の一杯を一気に飲み干す南さんから
目を離すことができなかった。
南さん…私まで胸が苦しいです。