あやなき恋



私ははだけた着物を胸元で押さえながらそのまま動けないでいた。



「………ヒナちゃん?」



南さんの戸惑うような声が降ってきた。



「なしてそないな…なして……ここにおんのや…」



「………」



無言のままの私に南さんは私に駆け寄った。



「ヒナちゃん…今…オレ……」



「南さん…何にもないですから……何にも…」



私は頬を伝う涙を指で拭った。



「……ホンマ、ごめんな。俺…」



「あ、あっち向いてください」



私は逃げるように立ち上がり、南さんに背を向けて着物を直した。



「大丈夫ですから…私、帰ります」



パンパンとホコリをはたいて、私は南さんを見ることもなく、ドアに向かった。



「ちょお、待ってえな……っ」



南さんは、ドアノブに手をかける私の肩を掴んだ。



「……何でしょう」



声に出すのも精一杯で



私は静かに震えていた。



「ごめんな。俺…記憶ないねん。何したか…うっすらとしか覚えてへん」



「ではそのままお忘れください」



「…ヒナちゃん!」



南さんは私の肩を強く引っ張り、私をドアに打ち付けた。



「…った…何するんですか」



「ちゃんと話しようや…泣いとるやん」



ドアに肘を付き、私を見下ろす南さん



私にはもう彼のことが分からなかった。



「…私から話すことは」



南さんはじっと私を見る。



「差し出がましいかもしれませんが、南さんは、結衣さんという方とご結婚なさるのでは…」



これを聞いた南さんの目が一瞬にして曇り始めた。



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