あやなき恋
ホテルのソファーに座るように言われて、私はずっとうつむいていた。
私は南さんの言葉をじっと待った。
「俺は結婚はしてへん」
いきなりの核心に私はゆっくり顔をあげた。
「でも結婚の話が出てるんはホンマや。……しかも今どき、会社の都合やで」
「どういうことですか」
私は眉をしかめた。
「親父がな、あるグループと俺の会社をくっつけようとしてん」
政略結婚。
南さんがずっと遠くの存在だと言うことに気が付いて、私はたまらず泣きそうになった。
「そのグループの娘はんと俺は幼なじみや。ただそれだけやと思ってたんに、俺がこっち来とる間に勝手に話が進んどる」
「……それで、悩んでたんですか」
私はおそるおそる声をかけた。
「…ま、せやな」
南さんは私の顔をじっと覗き込んだ。
「お店であんなに飲んだのも、疲れていたのも、そのせいですか」
所々声が震え、私は口元を押さえた。
「せや。ヒナちゃんに相談したかったんよ…でもまだ何にもはっきりしとらんのに話すっちゅうのは…と思うて」
「…なぜ結婚なさらないのです?早く落ち着かないと、っておっしゃいましたよね」
自分でも分かるほど口調が強くなっていった。
怒りなのか、悲しみなのか、それとも全く別の感情なのか
なんにもわからないまま口走った。
「それとこれはちゃうやろ!好きでもない相手と…俺は親の言いなりか」