あやなき恋
しばらくは誰も話さなかった。
どう話を続けていいか分からなかった。
だけど、私は何も事情を知らずに結婚していると決めつけ
南さんをひっぱたいてしまった。
「南さん」
私はソファーから立ち上がった。
「あの…叩いてしまって…。申し訳ございませんでした」
そして深々と頭を下げた。
「それに私、何にも知らないのに…あんなひどいこと言って…」
「いやいや」
南さんも私の言葉を聞いて、立ち上がった。
「元はといえば、俺が悪いんやから…その……嫌な思いさせたしな」
「あ、いえ…」
私は困って返事を濁して手をいじった。
「わ、私は話聞きますって言いましたよ。それを頼ってくれなかった南さんが悪かったんです」
言っているうちに恥ずかしくなって、私は窓辺に近づいた。
空は白み、ぽつぽつと道路を走る車がやけに目立っていた。
「ヒナちゃん…」
「お店に…お店にまた来てくれるなら許します」
後ろで南さんが私の方に顔を向けたのが分かったけど、私はずっと外を眺めていた。
「私はもう帰りますね」
私は最後に南さんを見てお辞儀をした。
南さんが何も声をかけられるずにいるまま、私はパタンとドアを静かに閉めた。