あやなき恋
「だってヒナがアフターから朝まで帰ってこなかったの初めてじゃない」
「え、まぁ…」
「何、あたしに隠し事するつもり」
「言いますから、中入ってください」
「はいはい、お邪魔するよ」
私はいたずらっ子の子供のような笑顔を見せる菜々子さんを自分の部屋に押し込んだ。
「わ、おいしそうな匂い」
「菜々子さん、グラタン好きって言ってたから」
「よく知ってるじゃない。…でもこれで話逸らそうなんて思わないでよ」
「ちゃんと話しますから」
菜々子さんになら相談してみようかな、と思ってしまった。
この世界で妖しく美しい菜々子さんなら、私がしたような経験はたくさん積んできているかもしれない、
こんな私の小さなモヤモヤ、すぐに消してくれるかもしれない。
「あの」
「ん」
私が話しかけようとすると、勝手にスプーンを出して一口目を食べようとしている菜々子さんが目に入った。
「あ、いえ。食べ終わってからにしましょう」
「暖かいうちにね」
「…はは、そうですね。いただきます」
私は両手を合わせた。
***
「それで」
「あぁ、ちゃんと話します」
空になったお皿を台所に下げて、二つのマグにコーヒーを持ってきた私を菜々子さんが待ち構えていた。
「昨日のお客さん、すごく酔っていたので駅まで送っていくことにしたのです」
「うんうん」
菜々子さんは渡したコーヒーに口を小さくすぼめて息を吹きかけていた。