あやなき恋
菜々子さんが私を見守るために部屋に来ていたなんて。
「あ……」
この前、菜々子さんの部屋に行った時
台所にはちゃんと調味料もお鍋も一式揃っていた。
本当はしっかりしてる人。
私の部屋に来る口実を作るために、菜々子さんはわざとそう振る舞っていたとしたら。
菜々子さんはそういう人だ。
私は確信した。
だけど、だとしたらさっき陸さんが言っていたことも本当になる。
私は複雑な心境だった。
「きっと何にもないよ」
私は一人ごちて編み込んでもらった髪をなぞった。
今は考えても不安になるだけ。
例のお客さんがお店に来て、私を見て楽しんでもらえてるなら、それはそれで嬉しい。
「ヒナ、2番テーブル」
「あ、はいっ」
ドアを少し開けて陸さんが少し顔を覗かせた。
「大丈夫だから」
陸さんが私の肩をポンとたたいた。
***
「こんばんは。あ、鷹さんじゃないですか!いらしてくれたんですね」
「ハッハッ、当たり前でさァ」
メニューを見ながら笑う鷹さんは一緒にいるとこっちまで楽しくなれる。
「ありがとうございます。何にしますか」
注文をしようと、陸さんをテーブルに呼んだ。
「うーん、慣れないもんでさァ…ビール2本。っと、それからねェ」
「鷹さん、夕飯はもう食べましたか」
「いや、まだですぜィ」
「当店では、日替わりの夕飯定食メニューがございます。それにしませんか」
私はメニューとにらめっこをする鷹さんに提案した。
「あぁ、そうだねィ!じゃあ頼みまさァ」
「かしこまりました」
陸さんは注文を確認すると厨房に入っていった。
「意外に慎重なんですね、鷹さんって」
「実はこういうお店は初めてなんでねィ」
鷹さんは腕を組んで照れくさそうに笑った。