手を出さないと、決めていたのに
「き、いてない……嘘、どこで!?!? というか、私、誰が彼氏とか言ってないよね!?」
「パーティがあってな、そこでちょっと小耳に挟んで。ついでに話もしたよ」
「え、噂になってるの!?」
 姉は言ったが、兄はそれには答えない。どうせ、探偵に大金払って調べさせ、自分から会いに行ったんだろう。しかし、姉が結婚を考えていないと言ったのが、気になったのかもしれない。それは自分も同じことだった。
「……どんな話したの?」
「まあ、遊ぶのなら他の女にしてくださいねって」
「うそっ、なんでよ!!」
 姉は大声を上げて、顔を真っ赤にして立ち上がった。
「で、なんて?」
 間に入って、静かに姉に座るように指示する。さすがに、人目が気になった。
「そんなつもりはさらさらありませんって。そりゃまあそうだわな、そこで、じゃあやめて他の女にしますとは誰も言わんだろう」
「……そうだけどさあ……」
 姉はどこも見ていない。ただテーブルを見つめて顔を顰めながら、ゆっくり腰掛け直していく。
「俺は、あいつはあんまり好きじゃないけどな。よくない噂も聞く」
 目が泳いでいる。どうやら、兄が言っていることに心当たりがあるようだ。
「……成功してる人ってそんなもんじゃない?」
 うまく返したつもりだろうが、
「だといいが」。
 兄は鋭い視線を姉に向けて、流した。
「えー、うーん……」
 姉は意味もなく肉をひっくり返したり、つついたりしながら、とりあえず何か考えている。
「……まあ、落ち着くのはまだまだ先だな」
「何が?」
「お前が」
「そんなやんちゃしてるわけじゃないじゃん」
「本当は結婚も考えているのか? お前は」
 姉が一瞬口ごもったのが、兄の挑発に乗った証だった。
「……本気で好きだったら、誰でもじゃない? こう……年齢とかさ、そういうの関係なく。今、私が30手前だから考えるんじゃなくて、ほんとに好きなら、いつでも考えると思う」
「……そうだけど。俺はこの年になっても結婚しようと思った女なんていないからどうだかは分からないがな」
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